WFH

都内の実家で作業するようになり、20年くらい前にどこかで拾った天板をIKEAの脚に載せた作業台の上で住宅の模型を作る。貼り合わせたスチレンボードの上に、いずれも20年(以上)前に手にいれた Petit Robert と、沖縄の先の島で拾った巨大なシャコ貝の、波に洗われて丸くなった分厚く重い貝殻を積み上げて接着の完了を待つ。部屋の壁面に据えつけた書架の棚板に、おそらく10年間くらいそのまま並んでいたはずのエウヘーニオ・ドールス『バロック論』とヘンリー・E・ジゲリスト『医学序説』と Ann Moyal という豪州の科学史家の書いた Platypus なる本の背表紙が目に入る。

これら3冊をむすぶ失われた環は(少なくとも自分にとって)カモノハシはバロック的な動物であるという謂いである。ただしいったい何がそんな修辞を記憶に刻ませたのか思い出せず、机上でしばらく手がかりを探した。

それはカンギレムの『科学史・科学哲学研究』の一節のようだった(オンラインで複写の抜粋を閲覧しているうちに原書230ページの註4と5の文献は表記すべき箇所が逆なのではないかという些細な気がかりが生じた)。

バロックについて何事かを書こうとして、バロック的動物たるカモノハシに触れぬわけにはいかないと思ってそのまま10年ほどが経過している。あらゆるものごとが記憶に過ぎないと思い始めたのはいつだったか?