より

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オリバー・モートン『月:未来への歴史』2019 エコノミスト 333p. 近未来に我々が帰還する天体としてそこにある月に、人類はいかなる視線と情熱を注いできたのか。地動説成立との関わりから前澤友作の月旅行計画まで、科学の対象として、あるいは人文的想像力の器として人新世に見つめる月の物語。
P・R・ドゥーブ『迷宮とその理念:古典古代から中世にかけて』2019(1990) コーネル大出版局 355p. 迷宮は解く者にとって先知れぬ単線的過程である一方、俯瞰者には精緻で完結した一つの構造を提示する。その二重性を鍵に、古典〜中世文献を渉猟しつつ迷宮という事物とその隠喩の豊穣な世界を提示する。
ルイス・ダートネル『オリジンズ:地球史で語る人類史の起源』2019 ベーシックブックス 346p. 人類の誕生から移動や居住圏の拡大・文明の発祥・自然の利用・物質や気候との関係・エネルギー消費といった人類史の過程を自然地球の歴史によって跡づけてゆく読み物。著者は英国宇宙局出身の研究者・作家。
B・バーコウィッツ『プレイフェア:世界の見方を変えた英国諜報員』2018 ジョージメイソン大学出版局 477p. 統計図表の発明で知られるウイリアム・プレイフェア(1759-1823)の初の本格的評伝。蒸気機関の誕生に立会い、対仏工作や合衆国初の政治スキャンダルにまで参画したスコットランド人の全貌。
津田直『Elnias Forest』2018 handpicked 126p. 帰る場所として見出された見知らぬ土地、見えぬものへの扉としての50組51葉の写真。 足下に触れる異界、樫の葉に見上げる雷光と太陽、右に捻られた多芯の蝋燭、人と土壌に流れる時間と物質。 稀有な選書が印象的な大船「Porvenir Bookstore」にて。
フランコ・ファリネッリ『地図的理性について』仏訳版 2009 CTHS 252p. 伊語原著は2003. 原題は『地理:世界の諸モデルへの序論』。届いてみれば98の章がすべて見開き2pをきっちり満たしているというクレイジーさ
マーシャ・ビョーネルド『タイムフルネス:なぜ地質学者のように考えることが必要なのか』2018プリンストン大学出版208p。 誰もが地質学的時間について語るが、果たして聖書や人類を超えた「時間の深さ」はいかに見出されたのか。時間発見の営みとしての地質学から人新世への視座を提示する読み物。
ダーシャ・ドルンディッチ(Daša Drndić)『トリエステ』2012 Maclehose Press 358p。クロアチア語原書は2007年。ある私的探求が北東イタリア国境地方の苛烈な現代史を蘇らせる。系図や写真や名録を散りばめた言わば「ゼーバルト的」フィクション。偶然にも落掌した昨日が昨年歿した著者の命日だった。
ルネ・タトン『数学におけるデザルグの業績』1951 PUF 232p. 射影幾何学の業績で知られるジラール・デザルグのテキスト。1638年メルセンヌ宛書簡、1639年「計画草稿」、 1648年「幾何学定理」と小伝およびビブリオグラフィを収録。建築設計も行ったデザルグは、リヨンにその作とされる建築部位が残る。
ジョフ・マノー『泥棒のための都市案内』2016 FSG 296p. 侵入という空間的犯罪の視点から建築と都市を考察。僅かな手掛りからプランや居住者像を推測し、防犯設備を無効化し、犯罪を遂行し、都市空間を活用して逃走する彼らの目に見えているいまひとつの都市の姿。著者は建築ブログ @bldgblog 執筆者。
フランソワ・ド・ダンヴィル『ラングドックの古地図 16-18世紀』1961ラングドック地理学会228p. フランス地図史・人文主義教育史の研究で知られる著者によるラングドック地方の地図の通史的研究。折り込みで26点の複製を掲載。著者はイエズス会士であり他にも著作複数。手元の古書は献本らしく署名が。
ヒュー・ガスターソン『ドローン:遠隔操作の戦争』2016 MIT Press 199p. 兵士が安全な上に、精密攻撃で民間人被害が抑制できるとして多用される軍用UAVの運用実態を多様な角度から考察する。操縦士の心理、遠さと近さの交錯、戦場空間の変容、米政府の論理と合法性、etc。お手本のように明瞭な文章。
M・ハロウェイ『マンハッタンを測る:地図製作者・測量士・発明家ジョン・ランデル・ジュニアの波乱の人生と驚くべき業績』2013ノートン372p. 19世紀初頭にマンハッタン島を測量し今日のグリッドの礎を据えた測量士の生涯。1811年委員会計画、測量技術の改良、運河を巡る係争、債務、etc.
J・エドワーズ(序)P・オグデン(写真)『リース・ミューズ7番地 フランシス・ベーコンのスタジオ』2001テムズ&ハドソン120p. ベーコンのアトリエが移設される直前にその状況を記録した写真集。内容物は10名の考古学者が3年をかけてカタログ化し、D・チッパーフィールド設計の展示空間へ移設された。
エヤル・ワイツマン『フォレンジック・アーキテクチャ:検出限界領域の暴力』2018ゾーンブックス372p. 建築、都市、集落など構築環境の近過去の事件をあらゆる媒体から再構築し真実性への寄与を試みる実践とその理論。〈証拠〉の民主化というアクチュアリティ、そして恐らく一つの歴史学の実践として。
テオ・ドイティンガー『暴力装置便覧』2018ラースミュラー160p. 飛び道具の飛距離から侵入を拒む垣根や壁、世界中のテログループ、建築解体の手法、群衆統制、死刑装置、果ては食肉工場まで、あるゆる分野の暴力と強制のメカニズムを図解する本。著者は建築家で社会文化的なリサーチ等も行なっている。
J・フォア、D・トゥラス、E・モートン『アトラス・オブスキュラ』2016ワークマンパブリッシング470p. 世界中の奇異な自然現象やいわゆる奇想遺産のような場所・文化を紹介する人気ウェブサイト @atlasobscura の書籍版。600を超える項目を擁する現代の〈驚異の部屋〉。全て所在や連絡先の情報あり。
J・チェシャー&O・ウベルティ『動物たちが行くところ:50の地図と図表でみる、最新技術による動物の追跡成果』2016パティキュラーブックス174p. GPS、深度計、発信機、衛星画像や映像の解析など様々な工夫と最新技術が明らかにする動物の生態を美しい地図で可視化。クジラからアリ、プランクトンまで。
ヴィットリア・ディ・パルマ『荒地の歴史』2014イエール大出版265p. 17〜18世紀英国における風景論・建築・美術・技術・地理などの諸分野を見渡しながら、沼地や山岳など特定の環境を無用の土地として忌み嫌いつつ同時にある種の可能性を投影するという、今に通じる文化的態度が醸成される過程を描く。
ドメニコ・ベルトローニ・メリ『モノで考える:17世紀における力学の変容』2006ジョンズホプキンス大出版389p. 17世紀〈科学革命〉期の主要業績における梃子や滑車や振り子やバネといった実験装置や幾何学的ダイアグラムの役割に焦点を当て、初期近代における理論と実践の関係を再考する。
ウィリアム・ランキン『アフター・ザ・マップ:20世紀のカートグラフィ、ナビゲーションおよび変容するテリトリー』2016シカゴ大出版398p. 地図におけるIMW、測地学におけるUTM、ナビゲーションにおけるGPSを軸に、19世紀末から20世紀の技術・政治的変化を背景に変容する主権と領域の関係性を論じる。
カーラ・ヤンニ『狂気の建築:アメリカの精神病院』2007ミネソタ大出版191p. 18世紀末〜20世紀直前の米国の精神病院の建築史。患者の社会的処遇および治療と空間・環境の関係、米国特有の線型(雁行型)病棟の成立と発展、収容数の増加に伴う建築平面の変化。著者はラトガース大美術史(建築史)教授。
ロビン・エヴァンス『プロジェクティヴ・キャスト:建築とその三つの幾何学』1995 MIT出版413p. 15世紀から現代までを射程に、着想から構築に至る建築創造の過程で幾何学の果たす内面的・動的な役割を考察する。作図法、投影法、遠近法、截石法、比例関係 etc 。著者は惜しまれつつ早逝した建築史家。
サンドラ・レントゲン @srendgen 『ミナール・システム:シャルル=ジョゼフ・ミナールの全統計図表』2018 Princeton Architectural Press 176p. 出たばかりの本。ナポレオン進軍の革新的な図解で知られる現代インフォグラフィクスの祖ミナールの全仕事を国立土木学校資料から集成。小伝と解説も併録。
デニス・デ・ルッカ『イエズス会と要塞:バロック時代の軍事建築へのイエズス会の寄与』2012ブリル389p. イエズス会は初期から教育や書物を通じ、あるいは宣教師派遣先の実地において軍事建築(築城術)に関心を示してきた。イグナチオの思想から技術者の具体的寄与の実態まで、その全体像に迫る試み。
マーク・モンモニア『マッピング・イット・アウト:人文・社会科学のための地図の描き方』1993シカゴ大出版301p. 同じタイトルだがこちらは主に人文系研究者のための地図(主題図)の描き方の解説書。スケール選択や地図要素の基本から種々のデータの表現法まで。著者は地理学者で既訳書あり。
ハンス・ウルリッヒ・オブリスト編『マッピング・イット・アウト:現代作家によるもう一つのアトラス』2014テムズ・アンド・ハドソン241p. 美術家・作家・研究者・デザイナー・建築家など130を超える同時代人が地図をコンセプトに制作した作品を収録する現代の〈地図帳〉。媒体から内容まで千差万別。
ジョン・P・スナイダー『フラットニング・アース:地図投影法の2000年』1997シカゴ大出版365p. 古代から20世紀までの投影法の通史。古代の着想、中世の停滞、数学と共に花開くルネサンス〜18世紀、そして精緻化と多様化の19-20世紀。拡大する世界の中で諸分野と交錯しつつ歩む〈世界の描写法〉の展開。
マッシモ・スコラーリ『斜めのドローイング:非・遠近法の歴史』2012 MIT 389p. パノフスキー以来中心透視図法(遠近法)を焦点にしてきた流れに逆らって、古代から綿々と用いられてきた平行透視図法に光をあてるもう一つの投影法の歴史。古代エジプト、中近世の技術書、イエズス会と中国の遭遇、etc.
D・ローゼンバーグ&A・グラフトン『時のカルトグラフィ:タイムラインの歴史』2010 Princeton Architectural Press 272p. 時間は常に線として描かれてきたわけではない。15世紀の神学的年代記から現代美術まで、様々なアナロジーや図表の発展とその背景を豊富な図版で辿る。時間の可視化術の歴史。
ジュディス・マトロフ『山だけを味方にして:高地の紛争現場からの報告』2017ベーシック・ブックス253p。 アルバニア、コーカサス、カシミール、メキシコ…なぜ対立は高地で起こるのか。逆になぜスイスは安定を保てたのか。山岳社会の特質とは何か。紛争ジャーナリズム専門家のトラベルライティング。
ピーター・バーバー編『ザ・マップ・ブック』2005ウォーカー360p。 紀元前1500年の線刻画から21世紀のリモートセンシングまで、175点のカラー図版と解説文で辿る地図の世界史。序文にある通り History of Cartography (1987-) を踏まえたビジュアル本という印象。編者は大英図書館の地図部門主任。
ケン・ジェニングス『マップヘッド:地理おたくの果てしない世界』2011スクリブナー276p。 地図や地理に情熱を注ぐ専門家やアマチュアたちの一風変わった世界を旅する読み物。タイトルは「地図狂い」「地図中毒」くらいの意味か(副題の訳は適当)。 著者は異色の経歴から転身したベストセラー作家。
展覧会カタログ『地図と大地の表象』1980ポンピドゥセンター479p。 いわゆる地図(とりわけ西洋、フランス)を中核にしつつも、場所、人間の所在、大地にまつわる表象の全史・全貌に迫ろうとする重厚な展覧会カタログ。すでに40年近く経っているが充実の内容と人類史的な視点という点で類書をみない。
ヴァイラヒャー&ヴルシュレガー編『スイス景観建築ガイド』2005 PPUR 370p。 スイス内の庭園・公園・外構設計・環境整備などの事例集。古今を問わず、訪問可能な450余件を掲載。現代作家ではD・キーナストがどこかに関わっているものが多い。欧州とスイスの景観設計史概説も併録。2002年独語版の仏訳。
ジャック・ベルタン『図表の記号学:ダイアグラム・ネットワーク・地図』1967/2005 EHESS 452p。 版を重ねる古典。4版には1998年3版の序文と2004年の小論も収録。「記号の図的表現の体系は明瞭で独立しており、そこには固有の手法がある。故に映画や数学や言語表現の体系とは別の固有の法則がある…」
クリスティーヌ・ビュシ=グリュックスマン『芸術における地図の眼』1996ガリレ179p。 レオナルドやブリューゲル以来、芸術に取り憑いてきた〈世界の地図〉というモチーフ/眼差し。フェルメールから20世紀のデュシャン、J・ジョーンズ、R・スミッソン、伊東豊雄までを俎上にその諸相と現代性を論じる。
レイチェル・ヒューイット『国民の地図:英国陸地測量部の歴史』2010グランタ436p。 1745年ジャコバイト蜂起を契機に構想され、1870年に第1版が完成した英国全土の官製統一地図。国家レベルの有為転変から技術の進歩、啓蒙からロマン主義へ移り変わる心性のレベルまで、地図史の金字塔の誕生を辿る。
ピーダーソン&カーティス『南極の地図を描く』2012ザ・マップ・ハウス164p。 18世紀末から1930年代まで、「南極探検の英雄時代」に少しずつ明かされてゆく南極の姿を80余枚の古地図と探検史に辿る。版元 @TheMapHouse は1907年創業のロンドンの老舗古地図商で、往時の南極探検にも協力した。
ジョン・R・スティルゴー『風景とは何か?』2015MIT出版264p。 landscape とは名詞であり、海に放り込まれた土塊を意味する古フリジア語を起源にもつ…から始まる、人間と環境の関わりを巡る言葉の逍遥。古文書から子供の絵本まで、耳にした方言や古語・廃語を含め語彙が秘める豊穣な世界を蘇らせる。
ギュンター・フォクト『風景という驚異の部屋』2015ラース・ミュラー227p。 スイスのランドスケープアーキテクト、ギュンター・フォクトと二人の若い助手の対話。ダボスのレストラン、チューリヒの路上、あるいはスタジオや事務所で風景、自然、都市、教育、そして景観設計の思想とプロセスを語る。
ジャック・ベルタン『図表および情報の図的処理』1977フラマリオン/2017ゾヌ・サンシブル270p。 ベルタンによるデータの視覚表現論の古典。多数の例を挙げて情報表現の基本理論と具体的方法を図解。1967の前著『図表の記号学』刊行50年に際しての復刊(森田喬訳『図の記号学』は1977の本書の方)。
マシュー・W・ウィルソン『ニュー・ラインズ:批判的GISと地図の問題』2017ミネソタ大出版184p。 GISやデジタル地図技術について、批判理論などを参照しつつ黎明期以降の諸展開に沿って検討し、デジタル人文学を含む諸分野で急速に展開される同技術の実践が内包する理論的課題と可能性を提示する。
ピーター・トゥルキ『想像力の地図:カルトグラファーとしての作家』2004トリニティ大出版245p。 さまざまなフィクションを渉猟しながら空白、投影、慣習、道、総図的なもの、幾何学など地図的なアイデアと創作の関係を語る。この版の裏表紙の推薦コメントにはレベッカ・ソルニットの名も。
アンダース・エングベルク=ペーダーゼン編『文学とカルトグラフィ:理論・歴史・ジャンル』2017MIT出版472p。 文学研究における地図的展開の現状を伝える論集。理論と方法/歴史とコンテクスト/ジャンルとテーマの三部に16論文を収録。文学と地図の表象・方法・機能の関係。 ホメロスから現代まで。
スレカ・デヴィーズ『ルネサンス民族誌と人間の発明:新世界・地図・怪物』2016ケンブリッジ大出版局355p。 16-17世紀に制作された地図の怪物や諸地方の表現の分析を通じて、植民地主義時代の欧州における地図上の民族表象の役割を考察し、その変遷を辿る。著者の学位論文を加筆改稿したもの。
リチャード・ブラッドリー『自然景観の考古学』2000 (1st ed) ルートリッジ177p。 手つかずの場所は先史時代の人類にいかなる意味を持っていたか。北欧・ギリシア・イギリスの例を通じ地形の聖性、人工物の分布様態、岩石芸術や石器生産のコンテクスト、モニュメントと場所の関係を考察する。
オリット・ハルパーン『ビューティフル・データ:1945年以後の視覚と理性』2015デューク大出版342p。 データへのアプローチと「伝達可能な客観性」を手がかりに戦後の視覚・情報・認知を論じる。 サイバネティクス、ケペッシュ、フラー、コルビュジエ、イームズ、マカロック、イサム・ノグチ。
トム・コンリー『主体の地図:近世フランス文藝の地図性』(意訳)1996ミネソタ大出版局刊372p。 近世フランスの諸テキストにおける主体の造形と地図的想像力の考察。ジャン・フーケ、ジェフロワ・トリ、オロンス・フィネ、ラブレー、モリス・ブグロー、モンテーニュ、デカルト。図版多数。
トム・コンリー『カルトグラフィック・シネマ』2007ミネソタ大出版局刊。 バザン/フーコー/ドゥルーズなどの映画論・現代思想を参照しつつ、等しく空間と主体の所産である地図と映画を結ぶ考察。サイレント期からハリウッド、ヌーヴェルヴァーグ、ネオリアリズモ、『グラディエーター』まで。
レベッカ・ソルニット著/東辻賢治郎訳『ウォークス 歩くことの精神史』左右社より2017年6月末刊行